「ウチのキャンピングカーで一杯やらないか?」
前に走ったことのあるmotoさんから、そんな悪魔的にステキな誘いを受けたのが金曜の夜。保険請求や確定申告など山積する問題も、こんな誘惑の前には、無力に等しい。 次の日の土曜、光の速さで書類仕事をやっつけ、俺はRocketIIIにまたがった。
時刻は午後1:40。
motoさんと待ち合わせは、東金道の山田インター。高速でブレーキ抜けたらめんどくさいから、多少時間はかかるだろうが下道でゆっくり行こう。一時間半くらい見とけば行けるだろう。そう思いながら16号を快調にすり抜け、126号に入ったところで、俺は愕然とした。
「あんだ、この道。すり抜ける隙間がねぇじゃん」
ちと東金街道をナメてたようだ。だが、そんなことで心を折られる俺じゃない。センターラインから反対車線を、『かみルール』によってMy道路に制定し速度を上げる。かみルールとは必要時に随時制定される便利な汎用法律のことである。
ま、いつものことだ。
いい加減に反省しろって話だ。
しないよ。
午後2:20、126号の山田インター近くに到着。
motoさんにメールを入れると、「反対側のセブンイレブンで待つ」とのことなので、そちらに向かった。面倒なので、グローブだの地図だのは、荷物を後ろにくくりつけているゴムバンドに挟み込む(太字重要)。
イレブンにつくと、motoさんがアドレスV100と一緒に待っていた。
お久しぶりーと再会の挨拶を交わし、さてそれじゃあ行きましょうかとなったところで、
姉さん、事件です。
グローブをどこかに落っことしたです。
motoさんに「ごめ、ちっと待ってて」とわびると、来た道を速攻で引き返す。幸いグローブは、最初に停まってメールした場所の近くに落っこちてた。グローブを拾い上げ、途中でこちらに向かってきたmotoさんと合流し、moto家に向かい。
3:00前ころかな、moto家に到着する。
時間的に中途半端なので、どうしようかとしばらく話し込んだ。
「このまま呑んじゃう?」
「いや、さすがに時間が……」
motoさんのが俺より大人だ。
ここにあるだけで単車四台。ほかにも持ってるんだから、うらやましい限りだ。
いやまあ、俺は何台も持ってたとしても愛せないから、RIIIとSDRで充分なんだけどね。
でも、オフ車ほしいなぁ。
これが件(くだん)のキャンピングトレーラ。
こう見ると狭そうだが、中はかなり広い。さすがメリケン人用だ。
さて、走りに行くにしても、時間的にそう遠くまではいけないだろう。
どうしようかと話していたらmotoさん。
「廃教習所があるんですけど、そこで走ります?」
ブラボー!
何でこのヒトは、俺のツボを刺激するステキ企画ばかり持ち出すんだろう。俺が局長なら、この敏腕プロデューサーの給料は、本日から三倍だ、マジで。視聴率80%超えは間違いない。『俺限定』てのが唯一の弱点だけど。
んで、その廃教習所まで裏道チックな場所を走ってったのだが。
もーね、鬼だこの男。
KTMなんて600cc超えのモタードバイクで、スリッピーな裏道をありえない速度でぶっ飛んでいく。田舎の裏道っぽいところを150オーバーだの、林道に毛の生えたような道を百オーバーだの、も、ついて行くのが精一杯。心臓が3回くらいクチから飛び出した。
ところが、だ。
こっちがそんな調子なのに、motoのヤロウ(このへんから表記が変わっていく:笑)、フロントひょいひょい上げるわ、冗談みたいに簡単にテールスライドさせるわ、も、やりたい放題。軽くキチガイ沙汰である。やっべ、俺やっぱこの男、大好きだ。
そんなこんなで、途中の駐車場で一服。
俺は飛び出した心臓を口の中に押し込みながら、moto君とpoitaさんの出会いの話だの、今から行く廃教習所の廃れた顛末だのを聞く。緊張から解かれ弛緩した身体に、タバコが染み渡る。我知らず笑みがこぼれた。
この駐車場から程近い場所に、廃教習所がある。
廃教習所についた。
思ったよりもずっと広い。moto君の話だとこれでもずいぶん荒れてしまってるらしく、半年前より走れる部分が少なくなってるということらしいが、ふたりでバイク遊びするには、充分だ。動かない信号機とか、公道っぽい白線が、世紀末チックで最高にステキ。
見てるだけでわくわくしてくる。
野宿セット一式もって、ここで泊まりたいくらいだ。つーか、たとえば人数集めてヴィディオ撮るとか、ゼッタイ楽しいぞココ。出来上がるのも、マッドマックス的なステキ画像なのは、間違いない。俺の周りにいるの、ガラの悪いヤツばっかりだし。
やっべー、 近くに住みてぇ。
いっそここで暮らしてぇ。
廃教習所の、メインストリート。
向こうに見える信号機は、もちろん動かない。自分でもアタマ悪いなぁと思うのだが、動かない信号機があるだけで、すげえワクワクテンションが上がってくる。mioさんとか、ゼッタイ好きだろうね、こういうの。タチ悪いの三人くらい並べたら、相当、絵になるだろう。
などと感慨にふけっていると、moto君が走り出した。
写真、よく見てほしい。
この先、まだ直線が続くってのに、車体の方向がおかしいだろう?
そう、写真ではわかりづらいが、ちょうどアクセルを戻し、エンブレでリアがブレイクしたところなのだ。このまま横向きにスライドして行って、コーナーを立ち上がるのである。間違いなく、変態だと言えるだろう。見てると、「おぉ!」しか言葉が出ない。
あと強いて出てくる言葉といえば、「俺もモタード買おうかなぁ」くれぇか。
俺も負けじと、RocketIIIにまたがっていろんな練習をする。
とはいえ、しょせんは俺。間違ってもmoto君のような変態ではないので、普通に定常円を書いたり、軽くホイルスピンさせたり、せっかく教習所なのでクランクの練習したりとか、かわいいもんだ。どっちかって言うと萌え系だ。
と、moto君のエンジン音がおとなしくなり。
なんだ?
と思ってみていると。
おいっ!
おいおいっ!
ぎゃはははははははははははっ!!
も、変態、ココに極まれり。
俺は大爆笑しながら写真を撮る。moto君に拠れば、この走りを達成するために自転車からはじめて、原付きを坂道で後ろ向きに乗る練習とか、かなり苦労したらしい。 ものすげえアサッテな苦労。絶好調にベクトルの間違った努力。最っ高にステキ。
もちろん、そんな努力のさなかにも、この男らしいバカ話があって。
仕事帰りに毎日毎日バックライドの練習してたら、散歩してるおばさんに目撃され、
『バイクに乗った不審者が出ます』てな
回覧板まわされたそうだ。
キチガイ沙汰のエピソードに俺はまた、腹を抱えて大笑い。
本人はニヤニヤしながら、「最終的には乗ったままスイッチバックしたい」などと、変態らしいアホ発言をしていた。もーね、こんだけやられたら、ベタベタに気に入るに決まってるだろ。最っ高に俺好み。 ホモセクシャル疑惑が発生しかねないほど気に入った。
この男、楽しすぎ。
陽も傾き、それじゃあ帰って宴会やるべ。
moto家に戻った俺たちは、荷物やRocketIIIをキャンピングトレーラにおいて、moto君のアドレスV100でヤロウふたりのニケツでお買い物に出る。こんな楽しい男と飲むのに、『つまみが切れた』とかいう事態になれば、かなり悲しい話になることは明白だ。
なので刺身や揚げ物をがっちり買い込んで、moto家に戻った。
キャンピングカーに入って、さぁ、宴会だ
中は、思いのほか広い。規格がメリケンだからだろうか。
とりあえず、ブラウマイスターで乾杯したら、刺身をつまみながら、絶好調の宴会だ。
moto君の昔話や俺の昔話、バイクに車にボートの話まで、やはりにらんだ通り、この男、すげえたくさんの引き出しを持っている。んでまた、ただ乗ってたとか持ってたとかじゃなくて、それにまつわるバカ話が山ほど出てくるので、笑いながら、喋りながら、急ピッチで杯が空いてゆく。
こんな楽しい夜なら、明けないでほしいね。
と、話し込んでるところにmoto君の携帯が鳴る。
しばらく話して携帯を切ったヤツは、にやりと笑って言った。
「poitaさん、顔出すって」
朗報だ。
ゴキゲンになたっところに、変態度では俺らふたりなど足元にも及ばないあのヒトを肴に呑めるってんだから、こりゃ楽しいに決まってる。そうしてまたバカ話に興じていると、お土産に寿司をぶら下げ、 変態仙人コトpoitaさんが叫びながら登場。
「ケンタッキーが売ってねーんだ。宴会の差し入れつったらケンタなのに」
と、相変わらず少々残念なヒトっぷりを発揮しながら、スーツ姿でやってきたpoitaさん。
大将が宴に加わり(車で来たので、呑みはしないのだが)またも俺は超ゴキゲン。そのうちpoitaさんへバイク屋から電話がかかってくると、俺とmoto君は無言のアイコンタクトでタッグを組み、ささやき声や身振り手振りで、なんとかpoitaさんを笑わせようとする。
まるきし、ガキだ。
だが、最高に楽しい夜だ。
12時過ぎころだろうか。
明日仕事だというmoto君の、「そろそろ寝る」つー言葉を潮に、poitaさんも帰り支度を始める。俺も持参のシュラフを引っ張り出して、お泊りの準備だ。笑いの絶えない、でたらめに楽しい時間は 、最高の思い出を残しつつあっという間に過ぎ。
都合6時間強の宴は、こうして幕を閉じた。
その翌日は、歴史民族博物館を見学。
歴史民族博物館を出た俺は、県道65号、佐倉印西線を北上。
国道464の渋滞を避けて利根川の川沿いを、のんびりと西行する。利根水郷ラインのまっすぐな道を走っているうちに、花粉パワーによる分泌物で顔面がえらいことになってきたので、ぶっ飛ばしたりはしない。晴天の心地よい風を受けながら、のんびりと走る。
土手沿いには、あちこちに花が咲き、もう春なんだと主張している。
春の証拠たちを眺めながら、昨日のステキな宴を思い出しながら。
俺はヘルメットの中で、顔がほころんでくるのを止められなかった。
朝晩は寒いこともある。
でも。
なあ、みんな。
春が来たぜ。