土手沿いの道は、すいていた。
時々、農家さんらしき軽トラックとすれ違うくらい。
もっとも、誰もいないのかと言えば、道っ端にはたくさんの車が駐車している。
釣り人だ。やはり降ったあとは釣れるのだろうか?
今日は気温が高かったので、曇天or雨のわりには非常に気持ちよく走れた。
ほとんど貸しきりの土手道を、80のペースでのんびりと走る。
時々気持ちよくツイストしている道があっても、そんなに飛ばさない。ガードレールがないから、道を外れれば霞ヶ浦にまっさかさまなのだ。いくら俺が頑丈だって、新車納入のたびにそんな大ネタかましてたら、命にかかわる。
と、トンネルの中で野良犬が雨宿りをしていた。
なので、「驚かしたくないなぁ」と思って、一度単車を停める。
すると、右手の土手の上に、なにやら東屋らしきものを発見。
ちょうどいいので、わんこが去るまでの間、ここでトイレ&一服にする。
なんの施設だろうと登っていくと。
明らかに休憩所だ。しかし、正体はわからない。
なるほど、この施設の成り立ちはわかった。
しかし正体は謎のまま。
トイレを済まして、単車に乗る前に、あちこち見渡してみると、向こうのほうにカンバンが見えた。『道の駅 たまつくり』と書いてある。地図で場所を確認し、それが霞ヶ浦のくびれた部分、東側にあることを確認。
戻ってみると、わんこは姿を消していたので、俺も走り出した。
とにかく、霞ヶ浦の土手沿いには、駐車してる車が多い。
交互通行になってしまう弊害もさることながら、こいつらは俺の恐怖心をあおってくるので、そのほうが閉口した。何の恐怖かといえば、もちろん、『四国の悪夢』に決まってる。
だってさ、見てくれよ。
こんなのは、全然OKな方。
ひどいときは、コレよりずっと細い道に、土手ギリギリで停めてあるのだ。
そりゃアンタは自信あるかもしれないけど、見てるこっちの肝が冷えるつー話だよ。いや、まあ、俺がガケ落ちとかそういう系の話に対して、必要以上に騒ぎすぎなことは自覚してるけどさ。
などと駐車車両に文句くれながら走っていると、その先に難関が待ち受けていた。
おそらく、M109R乗りのほとんどは走ることなど考えてさえいないだろう、その場所の名は、ダートロード。道は砂利か土のまま。ボコボコえぐれてへこんだ部分には、雨がたまって水たまりを形成している。当然、深さなんか見当もつかない。
正直、どう考えても、300kgオーバーのクルーザーで行く道ではない。
ではないが、しかし、俺は行かなくてはならないのだ。
去年の悪夢から、本当に目覚めるために。
俺の辞書にUターンの文字はないのだっ!
ま、実際はそこまで深く考えていたわけじゃなくて、ココまでM109Rに乗ってみて、RocketIIIよりも明らかに腰高感がないと感じていたのだ。足つきは変わらないけど、それが高さじゃなくて幅な分だけ、安定感がある気がした。
感覚的にイケそうな気がしたのだ(コケる時もそう言ってます)。
ダートの総距離、およそ500メータくらいだろうか。
走り出して5秒で後悔しつつも、結局、何とか走れてしまったところは、さすが足つきのいいクルーザならではと言ったところだろうか。ちなみに上の写真は、ようやくダートを超えて、ほっと一息ついてから、振り返って撮ったものだ。
越えてきた難関を見て、俺は自信を深める。
ふん、ダートなんて怖くないぜ。
石岡市高浜あたりのコンビニで、いったん休憩を入れる。
ハネまくった泥は、ダートを超えてきた勇者の証(自己申告)。
買って三日目にはこの体たらくなんだから、俺の単車たちって、基本的に不憫(ふびん)だよなと心から反省する瞬間だ。M109Rは近未来シティクルーザー的な見た目をしてるから、泥ハネとか汚れが、余計にひどく見える。
んでも、まだまだ走るけどね。
つーわけで、ダートマイスターの称号を(自己脳内で)授与された俺は、しばらく走って次のダートが見えてきたときも、全然、余裕の表情だった。むしろ 男らしい表情で、『かかってこい』的オーラさえ、かもし出していたに違いない。
さあ、来るならきやがれ。どこまででも走ってやるっ!
うん、ごめん。
さすがに行き止まりじゃ無理だ。
「はあっ」と大きなため息をつきながら、俺は心の辞書に『Uターン』の文字をしぶしぶ書き加える。つーか、道の両側、どっちもガケだからね。普通にヘコむっつの。この場所でクソでかいクルーザをUターンさせるのがまた、なかなか難儀な仕事だった。
なんとかUターンを終えた俺は、さらに霞ヶ浦沿いを走る。
といっても、そろそろ暗くなる時間。コレはさすがに、一周は無理っぽい。いや、距離がどうとか、疲れがどうとかじゃなくて、あかりひとつなく、道幅も狭く、おまけにツイストしてるこんな道を、夜になっても走るガッツが、俺にないだけだ。
なので、このまま土手を走り、土浦に出たところで霞ヶ浦と別れようと決める。
土浦から国道6号を飛ばせば、家はすぐそこだ。
霞(かすみ)の向こうに、道が吸い込まれてゆく。
「霞ヶ浦とはよく言ったもんだ」などと、アサッテな感想をつぶやきながら。
俺は新しい相棒と一緒に、機嫌よく走り出した。
家に帰ったら、ビールを飲もう。