poitaさんの走りが『鋭利』だとしたら、NEKOさんの走りは『軽快』。
ブレーキング終了からバンクする瞬間に、本当に『ひょいっ』と音がしそうな感じで、荷重を移す。後ろで見ていると、その瞬間、時間が止まる感じ。ブレーキの終わり際に、ひょいって曲がるのだってあーっ! 自分で書いててゼッタイ伝わってねーってわかるなぁ。
百聞は一見に如かず。
これはもう、見てもらうしかないのだが、先に書いたように俺はこのワインディングに期待してなかった。このあとで、面白いところを案内してもらおうと思ってたので、動画をセットしてなかったのだ。失敗したなぁ。ウカツすぎだろ。
「しっかし、エグいよなぁ。これ、お互い初めての道で、俺が後ろだからついていけてるけど、前に出たら相当、厳しいだろうなぁ。つーか、これがNEKOさんのホームコースだったら、ついてけないかもしれないなぁ。や、ついてけないな、きっと」
と、悔しいような嬉しいような色んな感情が混ざり合い、俺はNEKOさんを追う。目の前には、どう見てものんびり走る用としか思えない、天高くカチ上がったハンドルのクルーザーが、ひょいひょい踊るように軽やかに、しかしアベレージスピードだけはとんでもない速度で走っている。
あとで聞いたらNEKOさんの主義らしいのだが、直線では100~120くらいまでしか出さず、あくまでコーナリングを楽しみながら、しかも安全マージンもしっかり取りつつ、(このマージンの取り方が、俺と同じベクトルなので、見てて不安がない)危なげなくぶっ飛んでゆく。
ものすげぇ、違和感。
それも、心地いい違和感。
俺は途中から、ヘルメットの中で笑いっぱなしだった。
と。
反対車線を下ってくる単車がある。すれ違う寸前、思わず声がでる。
「ろ、RocketIIIじゃん! えー? なんでー?」
青いRocketIIIとすれ違い、ものすごい偶然に驚きながら。
しかし、今はとにかくNEKOさんを追わなくては。
なにしろ、ついていくだけで、かなり大変だ。しかし向こうはエイプハンガー。ここで引くわけには行かない。ステップどころか、かなり早い段階からフレームやマフラーまでも擦り倒しつつ、俺は前をゆくRIIIのことだけを考えて、ワインディングを攻め続けた。
頭が真っ白になり、アスファルトの感触までわかりそうなほど、集中してゆく。
てっぺんの駐車場に着くまで、俺は至福の時間を過ごした。
駐車場に入ってヘルメットを取り、大爆笑しながらNEKOさんに近づく。
「速ぇー! なんでー? エイプなのに速ぇよー! NEKOさんおかしいよ!」
「慣れだよ」
なんて言いながら、NEKOさんはにやっと笑う。
この笑顔で、俺は完全にヤられてしまった。
テンションは上がりまくり。
楽しくて楽しくて、まるで嬉しすぎてションベンしちゃう犬みたいな状態だ。だが、仕方ないだろう? エイプハンガーにステップボードで、バカっ速いんだぞ? 一度は自分で否定しかけた速いフォワコン乗りが、目の前にいるんだぞ?
座りションベンしなかっただけ、ありがたいと思え(主に俺が)。
すっかりNEKOさんになついてしまった俺は、色々とバカ話をする。
と、そこに先ほどすれ違ったRIIIが現れた。
ヘルメットをとった姿は、俺のオヤジ(生きてた当時の)くらいの男のヒトだ。
偶然だなァなんて話しかけようと思ったら、なんと! この方は俺のサイトを読んでくださっていた。そう。君が今、思ったとおりだ。そんな偶然があるわけないのだ。この方(仮にトライデントさんと呼ぼう)は、俺のサイトを見て、わざわざ栃木から来てくださったのである。
そう……
道の駅はなぞのへ。
どうせ誰も来ないとタカをくくって、土壇場で集合場所を変更したりしたもんだから、11:00から延々と待ちぼうけを喰らわされてしまったのである。申し訳ないと、恐縮しつつ、お詫びする。トライデントさんはPC初心者なので、見てはいるけど書き込みなんかは苦手なんだそうだ。
よく考えれば(考えなくても)、そう言う人って結構いるはずなんだよね。
いや、ホント自分の考えの浅さを悔やむばかりだ。
左から、トライデントさんのRIIIクラシック。mioちゃんのエナメルシートうねうね変態RIII。俺様のステキなM109Rマンタ号、アタマ切れちゃってケツだけ写ってるのがNEKOさんの超変態エイプハンガーRIII。
トライデントさんは、ものすご古い雑誌を持ってきてくれた。
mioちゃんが生まれる前の雑誌だ。俺は1歳とかそんくらいのすげぇガキだったのかな? NEKOさんは世代かもしれないが、本人いわく平成生まれらしいので、深く突っ込むのはやめておこう。
トライデントさんのRIIIクラシックは、シートがジェルシート。
NEKOさんがジェルシートのすわり心地を確かめたり、mioちゃんやトライデントさんが話をしてるスキに、俺は俺の作業をしなくてはならない。ファストバッグを開けて工具を取り出すと、早速、しゃがみこんで作業を開始する。なにってんもちろん、
NEKOさんとの走りでぶっ飛んだ、ベアリングをスペアに交換するのだ。
いや、右側のベアリングスライダーの土台になるデンデンボルトは、当然ながら緩む方に力が加わるので、すぐに横を向いてしまい、そのままぶっ飛ばして擦り続けると、簡単にぶっ壊れるのだ。左はもちろんノートラブル。ベアリングの固定方法、考えないとなぁ。
バカみたいにすっ飛ばした俺とNEKOさんは、かなりお疲れ気味。
このあと結局、座ってるNEKOさんの周りにみんなも座り込み、バカ話大会になった。mioちゃんのオヤジさんと同じくらいの歳だって言うトライデントさんまで、地べたに座って話し込んじゃうんだから、単車乗りってのは気持ちがいい。
嬉しくなる瞬間だ。
んで、ジュースでも買おうと思ったのだが、駐車場に自販機が見当たらない。なので、神社へ向かう階段を登り、みんなで自販機さがしの旅に出た。歩き出して5秒、階段にたどり着く前に俺の心は折れ気味だったんだけど。かみは基本的に歩かないのだ。
階段を登り、さらに坂を歩いて上がってゆくと、山の上には心地よい風が吹く。
そこでようやく、俺とNEKOさんは景色が綺麗なことに気づいた。キチガイ系単車乗りの基本的な精神構造の産物である『道しか見てない』のせいである。いや、だって、よそ見してたら危ないじゃん?(フレーム削る方が十倍は危ないです)。
美しい秩父の山。
つっても景色への興味は数秒で消え、俺の心はすでに、土産物屋のある一角を正確にロックオン。ターゲットは銀色の缶に入れられた、麦を原材料として醸造される、美しい泡の出る黄金色の魅力的なドリンクだ。別名、神の飲み物とも言う。
その俺のスリップストリームに入って、NEKOさんも同じ場所へ。
呑んだくれの考えることは同じなのだろう。もっとも、ケースに南京錠が掛かっていたので、すんでのところで俺もNEKOさんもブレーキをかけることが出来た。mioちゃんとトライデントさんがいたから、だって話もある。なんたって俺の心にはすでに、
「こんだけ暑けりゃ、一本くらい呑んでも抜けちゃうよねー」
的なセリフが用意されていたのだ。
普段はあまり飲まないヒトと走ってるから平気なのだが、NEKOさんは俺と同じ生粋の酒飲みなので、ついつい、思考が酒に持っていかれる。さすがに飲酒運転はしないが、つい呑んじゃってお泊り的な話には、今までより格段に陥(おちい)りやすそうだ。
ま、泊まって次の日の朝一番で出るてならともかく、抜けてからってのはいくない。
抜けたつもりでも酔ってることってのはあるからね。気をつけよう。
んで、お土産屋のところにあったベンチに座り、また色々とダベった。
ヘタすりゃ本名さえ知らないのに、くだらない話で大笑いし、はじめて会った年上のヒトと、10年来の知己のように、冗談を飛ばしあう。オヤジくらいの歳のヒトと単車の話やサイトの話をする。ウチ整骨院の若い衆くらいの歳の男と、掛け合い漫才をやる。
なんだって世の中には、こんなに楽しいことがあるんだろう。
なんだって単車に乗ってる連中は、こんなに気持ちいいんだろう。
もちろん、そうじゃない人間もいる。
むしろ単車に乗ってても、いや、乗ってるからこそ気に喰わない、ケツを蹴り上げたくなるようなクソもいる。いい歳をして自立とか自己責任て言葉を理解できない人間なんて、腐るほどいるのだ。誰に対しても上げ膳据え膳を要求するような、最悪のクソが。
だから俺は集団で走るのが好きじゃないし、馴れ合ったり徒党を組むのも嫌いだ。
このサイトの初期のエッセイにも書いているように、
『干渉してくれるな』
と、それだけを言い続けてきた時もあった。
なんで俺がクソのクソなところを指摘したり、諭してやったりしてやらなきゃならんのだ。俺よりはるかに年上の、もう、分別つくつかないどころか、むしろ下のものにそれを指導しなくちゃいけないような歳の人間に。知るか。いいから俺に関わるな。
そんな風に思って生き、単車に乗っていた時もあった。
だが、ココへ来て俺は、すごくいい出会いばかりに恵まれてきている。
年齢の上下など関係なく、いい男たちに出会えている。単車乗っててよかったな、男やっててよかったなって思える連中だ。もちろん単車なんか好んで乗ってる連中だから、ガキでバカな大人という、ムダに厄介でタチの悪い連中だ。無論、俺も含めて。つーか俺筆頭に。
だけど、気持ちがいい。
そして俺はそれだけで、ものすごく幸せな気持ちになれるのだ。
三峰神社でトライデントさんと別れる。
トライデントさんはさすがにキチガイじゃないから(少なくとも今日会った限りでは)、キチガイ走りに付き合わせるわけには行かない。そこで俺たちは大げさな挨拶など交わさず、君子の交わり淡きこと水の如く、何気なく別れた。
そりゃぁそうだ。
確認するまでもないことだが、トライデントさんとだって、いずれまた必ず会うのだから。
近所のダチと別れるようなもんだ。
いやまあ、もちろんトライデントさんの方が会ってくれるならって話ではあるけど。
神社の道を下りきったところで、雨が降ってきた。
カッパ着るかどうするか話そうと思って、下ったところにある駐車場に単車を入れる。そこで地元のmioちゃんに相談すると、「一気に下った方がいいと思います」と言うことで、三台連なって山を下る。すると途中で雨がやんできた。やるじゃん、mioちゃん。
それからmioちゃんの先導で、秩父ミューズパークにある、軽くツイストした気持ちのいい道を走る。もっとも、車が結構いたので、それほどハイアベレージで走ったわけではない。軽く流す程度だ。んで、登りきったところの駐車場で、最後の時間を過ごす。
出会い、走り、喋り。
楽しい時間はあっという間に終わりを迎え、mioちゃんの先導で国道299まで案内してもらう。299に乗ったところで、mioちゃんは片手を挙げて帰っていった。まさに、近所のダチのように。その背中を見送ったあと、俺とNEKOさんは、299をぶっ飛ばし始める。
俺たちはすり抜け逆走をかましまくり。
ガンガンとハイアベレージで299を駆け抜ける。キチガイ比べみたいになりながら、気持ちいいコーナー群を次々と走り抜けると、やがて、県道15号の入り口が見えてきた。残念ながら、ココでNEKOさんともお別れだ。
「俺、その道を曲がりますんで、これで」
「じゃあまた」
「はい」
NEKOさんと別れ、県道15号を東に向かう俺のアタマの中に、ダベっている時のNEKOさんのセリフが、何度もリフレインする。それは、NEKOさんがエイプハンガーでバカっ速いことに感動して俺が言った言葉へ、笑顔で返された彼の言葉だ。
「いやぁ、エイプハンガーをナメてましたよ。ハーレィは歴史が長いから、ハーレィ乗りの中には、NEKOさんみたいに『とてもそうは見えないスタイル』で鬼のように速いヒトもいっぱい居るんでしょうね。こりゃあ、考えを改めないとなぁ」
「ははは。俺のダチは、こんなハンドルで速いヤツばかりだよ」
俺の目の前に。
遠く、長く。
しかしまぶしく輝く光の道が見えた。
夏だ。
走ろうぜ。