朝の4時、目を覚ます。
早く起きたのは二日酔いじゃなく、涼しいを通りこした「寒さ」のせいだ。
「夏の新潟は暑い」などと、たった数度の経験で決めつけていたことを反省しつつ。
俺はのっそりと起きあがって、テントを出た。
昨日の夜、8時には寝てたので、睡眠時間は充分だ。
むしろ8時間も寝るなんて、ここ数年ぶりのことなので、寝すぎで少し腰が痛いくらいだ。
それでも、いつもの倍も寝たことで、気分的にはすっかりリフレッシュ。

アルコールストーブとチタンマグで湯を沸かし、朝食の準備をする。
普段は朝も昼もいらないんだが、さすがに朝4時からなので、少しは腹に入れておこうと思ったのだ。
つっても「乾燥スープ春雨」をカップ一杯、という実に簡素なものだけれど。

温かいスープをすすっていると、だんだん陽が昇り始める。
そのお日様へ向かって柏手を打ち、今日一日の安全運転を約す。
食べ終えたところで、テント一式の撤収作業を始めた。
とはいえラックシステムのおかげで、作業自体はすぐに終わる。
太陽電池で充電するLEDランタンを、サーマレストマットの上にくくりつけてみた。
これで走りながら充電できるから、少なくとも夜の明かりの心配はなくなる。
このランタンはサーマレストと並んで、最近いちばん正解だった買い物だね。
さあ、それじゃあ二日目のツーリングに出かけよう(・∀・)
と、290号を走り出してすぐ、思わずビューエルさんを停める46歳。
差し込む朝日、まっすぐな道、畑の緑、目の前の山、行く先の靄(もや)、そして青い空。
目の前に広がるそんな景色に、なんとなく胸を打たれたのだ。
写真を撮ってるあいだに、「今日は迷ったら停まろう」と決める。
走ってて、「面白いもの」や「美しい風景」に出会ったとき、それを写真に撮るかどうか。
実はこれ、俺の中で少し悩ましい課題だったのだ。
もちろん、その解決のために「走りながら撮るシステム」を考案したんだが。
それでもカメラの起動の遅さや、そもそもすっ飛ばしてるせいで、結構、撮り逃すことが多い。
そんな時、停まって撮るか、あきらめて走るか、いまだに決めかねる。
なので今日は最初から「迷ったら停まる」と決めておき、その逡巡の時間をなくそうと思ったのだ。

つわけで、気に入った風景に出会ったら、即、停まって写真を撮る。
そのぶん、走りは遅々として進まないのだが、「それもまたいいか」と思える。
旅に出ると気が長くなるのは、いつものことだ(・∀・)

もちろん、今まで通り「走りながら撮る」のも並行してやるんだけど。
これは走ってきた道がよかったので、うしろ向きに撮ってるところ。
うしろ撮りは、ここ数年がんばってるんだが、なかなか上手くならない。
村上あたりで国道7号線に乗り、しばらく走ってると、左側に海が見えてきた。

朝いちばんで、美しい日本海を眺めながら、のんびり愛機を進ませていると。
途中に「夕日ライン」の文字を発見し、思わずニヤりと笑う。
「水曜どうでしょう」の原付東日本で出てきたのを、思い出したのだ。
残念ながら夕日にはまだまだほど遠い時刻だが、せっかくだから走ってみよう。
そう決めて走ってると、県道50号線の表示にいったん国道を離れ、そちらへフロントを向ける。
入るとすぐに長い下りで、目の前に港の風景が開けた。

もちろん、今日は「停まる日」なので、ちょうど見つけた展望スペースへ駐車。

港の写真は撮ったんだけど、あんまり
きれいに撮れてなかった。
なので代わりに、ビューエルさんの御尊顔(・∀・)
乗ってきた単車の中で、歴代最高に溺愛してる、俺の相棒(迷惑がられてる可能性があります)。
写真を撮ったらその相棒へまたがり、また、北へ向かって走り出す。

夕日ラインは朝見ても美しく、海岸線をまっすぐ伸びる、気持ちのいい道だ。

やがて国道7号線に合流すると、そろそろ、
本日最初の目的地が見えてくるはず。
このルートを通るなら、絶対に避けて通れない、俺の大好きな道。
鳥海山のふもとを走るワインディング、「鳥海ブルーライン」だ。

ブルーラインの看板が見えたところで、いったん停まって仮休止。
タバコ一本を灰にするあいだに、軽く体操して体をほぐしつつ、上がったテンションを抑える。
起き抜けで峠道をすっ飛ばすとか、フラグ100本くらい立てかねないからね。
つわけで、鳥海ブルーラインの走行動画。
2分40秒くらいまでが登り、それ以降は下りで、全部で8分ちょっとの長い動画だ。
流して走ってるけど、下りの景色はきれいだから、その辺だけ見てもらえれば充分。
さて、楽しい鳥海山を走り抜け、いつもはそのまま7号へ出てたのだが。
走ってたらちょうど目の前に、「鳥海グリーンライン」の看板が見えた。
「なんだ、ミドリもあるのか。前に来たときは見逃してたのかな。それとも忘れてる?」
どっちもありそうなのが哀しい(´・ω・`)

つわけで鳥海山の山すそを、気分良くすっ飛ばしてゆく。

するともう、この道が
大正解ったらない。
いくつかのスキー場を経由しながら、節操なくツイストするワインディング。
南由利高原を抜けてからの、ハイスピード・ワインディング。
ブルーラインと同等か、場所によってはそれ以上に楽しめた、素敵な道だった。

これは高速ワインディングの終わりころかな?
満足とともに景色を写したのを、なんとなく覚えてる。
いろんな曲がりを堪能し終えたころ、道は海沿いの県道7号線に出る。
秋田市へ向けて、のんびりと北上だ。

その途中、道の駅のウラに「にしめ湯っ娘ランド」と言う
入浴施設があったんで入る。
直射日光がじりじり照り付ける駐車場で、リュックを下ろして大休止。
お風呂セットをもって、意気揚々と風呂へ。
昨日の日焼けにお湯がしみて、軽い悲鳴を上げながら、風呂を堪能したら。
風呂を出てから、今度は長そでのナイロンシャツに着替え、タバコを一服。
長袖の上へエルボープロテクタ、クロップドパンツの下へニープロテクタ。
最後にボディプロテクタを付けてリュックを背負ったら、それじゃあまた走り出そう。

海沿いのまっすぐな7号線を、風呂上がりのさっぱりした気分で走る。
気温はだいぶん上がってきて、確か30度は超えてたかな?
それでも風呂のおかげで、しんどいほどじゃない。
やっぱ、暑い時こそ風呂がいいね(・∀・)

それに関東でイメージするほど、広いまっすぐな国道ってわけでもなく。
時々こんな風に、木陰の中を走る気持ちのいい道になったりするし。
もっとも、秋田市という大きな都市へ向かってるわけで、だんだん混んでくるのも仕方ない。
大きな交差点が多くなり、信号の数も増えてくる。
時間的に昼寝タイムだったので、ノリで撮っただけ。
後で調べたら、事故の多い交差点のようだ。
そのまま秋田市に入り、例のドームを横目に通過。
男鹿半島の根元に来たわけだが、過去、二回寄ってるので、今回はパス。
この天気なら、入道崎あたりは綺麗なんだけど、あそこまでが暑いんだよね。

つわけで男鹿半島のつけねにある、道の駅「ことおか」で小休止。
水分補給しながら地図を見て、この先のルートを考える。
ちょうどいい木陰があったので、そこでのんびり座り込み、ツーリングマップルを眺めてると。
ちょまてよ!(©木村)
『すごい風景 ここは日本か!?』だと?
そんなん書かれたら、行かないわけにはゆかないじゃないか!
それに、二ツ井の北側にも、ちょっと面白そうな道がある。
「んじゃ、この風景を確認してから、二ツ井の手前で北上だな」
ルートが決まれば話は早い。
呑み終えたペットボトルを片付け、さっそく愛機にまたがる。
目指すは「ここは日本か!?」ポイントだ。
「つってもまあ、この手のはたいてい、肩透かしで終わるんだけどね」
たいしたことない風景かもしれないと、あらかじめ心に保険を掛けておく。
地図で見たかぎり、みちはただドまっすぐなだけだし、何か変わったものがあるのか。
それとも、そのまっすぐな道が見ものなのか。
走り出してすぐに橋があり、両わきは池になっていた。

「おぉ、これは
充分きれいじゃん」と、満足しながら進んでゆくと。

どっかんド直線。
まるで滑走路のようにまっすぐな道が、消失点の彼方まで続いている。
視線の先が陽炎(かげろう)で揺らめき、左右の並木を吸い込んでゆく。
「これか! 想像通りっちゃその通りだけど、でも、うん、すげぇな!」
「思わぬ光景」ってのは、これだけ走ってるとたまに見る。
だが、思った通りなのにすごいってのは久しぶりだ。
感動した46歳は、機嫌よくビューエルさんを走らせる。

もちろん、飛ばすなんて
もったいないことはしない。
うしろ撮りも慎重にやって、けっこう上手くいった。
手前じゃなくて景色にピントが合えばカンペキだけど、それはも少し練習しよう。
思いのほかよかった「ここは日本か!?」ポイントに気を良くしたら。
今度は二ツ井の北にある、県道317号線を目指そうか。
地図で見る限り、かなりくねりまくったクソ峠っぽいから、楽しみだ。
と思っていたら、目の前に「広域農道」のカンバン。
脊髄反射でそちらへ向かい、畑の中の「単なる思いっきりまっすぐな道」だった事に後悔しつつ。
適当にリルートして、結局、ちょっと遠回りしながら、ポプラを数えて(スルー推奨)国道7号へ戻る。
やがて、二ツ井あたり。

東北ツーリングでよく寄る「道の駅ふたつい」までは行かない。
その手前で折れて、山の中のアホほど曲がった道を進んでゆくのだ。
さっきの「日本か!?ポイント」が当たりだったため、「今回も」と期待して走ってゆくマイトガイ。
7号線の陸橋のたもとを左へ折れて、無事、県道317号線にのる。

そのまま比較的まっすぐな道を北上してゆくと、やがて道が曲がり始めた。
さあ、楽しいワインディング・タイムの始まりだ。
風呂でリフレッシュしたから、がっちり走るぞー!
気持ちのいい曲道を、タイアのエッジを削りながら曲がってゆく。
飽きもせずに繰り返す、この至高の時間に酔いしれつつ。
ふと、枝道に差し掛かった時、何のカンが働いたのか、急に進路を西へ。
いやまあ、カンつーか「○○ダム」って書いてあったからなんだけど。
この枝道は正解ってほどでもなかった。
いや、充分に快走路なんだが、アベレージスピードが高すぎる。
ケーロクあたりなら、ちんこ縮ませながらすっ飛ばすだろうけど、ユリには速すぎ。

T字路へ出たところで、いったん停まって仮休止。
タバコを吸いながら、「ああ、そういやクソ峠ばっか撮ってたな」と思ったので。
ここからUターンして、来た道を戻りながらビデオカメラのスイッチを入れる。
通りががりのワインディング動画(約3分)
まあ、ワインディングつーか「ほぼ直線」って感じの道だけど。
無音状態から、突然、BGMがかかるから注意。
ちなみにBGMは、実弟トムの昔のバンド、T.O.Mの「SUN」って曲だ(・∀・)
戻ってきたら、また317号線を北へ向かって走ってゆく。

少しは広かった道が、この橋あたりから
急激に狭くなり。
みんな大好きクソ峠(要出典)の始まりだ(`・ω・´)
ブルーライン、グリーンラインと走ってきて、だいぶん本調子になってきてたので。
この辺からは写真を撮らず、リズミカルに気持ちよく走ることを心がける。
ああ、生きてるなぁ(・∀・)
と、目の前にちょっと素敵な光景が開けた。
一瞬、このまま行っちまおうかと思ったが、今日は「停まる日」だと思い出し。
その景色の前に車体を停める。
こうして見ると、どうってことない景色だが。

すごく
切り立った険しい崖が、かなり頭上まで伸びている。
「おぉ、すげぇな。タツヤあたり登らせてやりたいな」
秩父のウォールクライマーなダチのことを思い出して笑ったら、先へ進もう。
ところで秋田と青森にまたがるこの道は、地図によると青森側がダートらしい。
それも延々8キロにわたる、長いダートだという。
でも、ところどころは舗装されてるようだし、それならいずれ全線舗装されるだろう。
「つまり起伏はなくて、フラットダートだってことだな」
そうあたりを付けて走り出したわけだ。
このあたりの地図を見てた時は。
で、そんなことをすっかり忘れて、気持ちよくワインディングを走って俺の前に。
突然、それが現れた。
ダート走行動画(3分)
ピントずれちゃってる上、特に見どころもない。
本当は走りながら結構しゃべったんだけど、風切音でまったく録れてなかった(´・ω・`)
がんばって、ばっかみてぇに独りで色々しゃべったのになぁ。
すったもんだ青森側のダートを抜けて、県道28号線へ出る。

津軽白神湖は、津軽ダムにある人造湖らしい。
このときはただ、「きれいな湖だな」と思っただけだけど。
この橋の高さがハンパなくて、下を眺めると吸い込まれるようだった。

一応、写真に撮ってみたけど、高さとか傾斜とかは、
写真に残すのが難しいね。
うまく取れるようになったら、けもの道を走るときの写真も、もっと臨場感が出せるかも。
ま、でも写真の勉強より先に、俺にはやることがあるからね。
壊れないビューエルさんを作る、って至上命題が(`・ω・´)
湖で小休止しながら、次のルートを決める。
とはいえ、今晩は十和田湖に泊まろうと思ってたので、そう悩む話でもない。
どうせあの周りはワインディングばっかだし、テキトーに向かうだけで楽しいだろう。
そう思って走り出し、何も考えずに弘前市内へ入ってしまう。
さすがに混んでる市内を、暑さにやられながら、ほうほうの体(てい)で抜け。
国道7号線を南下して、454と102で十和田湖へ。
やっぱり楽しかった、十和田湖へのワインディング動画(6分半)
曲道が嫌いじゃない向きには、酒でもひっかけながら眺めてもらえれば。
たぶん、走りたくなるよ(・∀・)
ここはホント、いつ走っても気持ちいいわ。
なんてゴキゲンで走ってると、ついにトラブルタイムがやってきた。
「ロングツーリング」「かみさん」「ビューエルさん」
このキャストで「何もないはず」と考えた、俺が甘かったようだ。
なんかおかしいなとは、湖を出て県道28号線を走ってる段階で、感じていた。
だが、「ダートなんか走ったからかな?」くらいに思いつつ流してた。
そのうち弘前市内へ入ってしまい、うやむやになってたんだが。
ここへきて明らかに、違和感がごまかせなくなってきた。
ブレーキレバーが 異常に近く なってる(´・ω・`)
それは通常、ブレーキパッドが減ってきたか、フルードが沸いてエア食ってるしるしだ。
しかし、さすがに今さっきで体感できるほど、急に減るわけがない。
かといってブレーキフルードが沸くほど、ハードな走りもしていない。
つーか入れてるフルードはSP-Rだから、相当ハードに使っても平気なはず。
「暑さ……は関係ないだろ。やっぱダートでなんかあったかな?」
思いながら、モノがブレーキだけに、強行軍というわけにもいかず。
120号線の途中でビューエルさんを停め、チェックしようと降りる。

と、降りるとき偶然、ハンドル回りに
顔が近づき、たまたま目に入ったのが。
すっからかん のリザーバータンクだった(´・ω・`)
一瞬、頭の中が真っ白になり、かるい絶望感に襲われる。
それから、「はい、慌てない。俺とビューエルさんだぞ? そら何かあるさ」と、自分を鼓舞する。
落ち着いたところで、原因の特定と、今後の対策を考えよう。
まず原因。
1)ブレーキフルードは、もしパッドが全減したとしても、ここまでは減らない
2)であれば、どこかが破損するか、ゆるむかして、フルードが漏れてるはず
つわけで、マスターシリンダーから順番に、ホース、キャリパーと見てゆくと。
キャリパーの取り付けボルト付近に、それらしき痕(あと)を発見した。
フルードが漏れて、塗装が剥げてる。
しかしこれだとまだ、トラブル箇所まではわからない。
(ホースに小さな穴が開いて、そこから漏れたフルードがホースを伝ってきてるのかも)
そう考えて、ホースの濡れをチェックし、それからキャリパーのバンジョーボルトをチェック。
増し締めしてみると、バンジョーボルトが少しだけ緩んでいた。
今まで平気だったんだから、おそらくダート走行で緩んだ……のだろうか? そんなことあるか?
まあ、遠因は後で検証するとして、次は対策だが、これはすぐに思いついた。
1)奥入瀬の先にガソリンスタンドがあったはずだから、そこでフルードを買う
2)もしも買えない場合、応急処置として燃料アルコールを足し、翌日、ホームセンターを探す
結論が出たので、まずはガソリンスタンドへ向かおう。
スタンド、50キロくらい先だけど(´・ω・`)
とはいえ俺もかつては、奈良から柏まで、フロントノーブレーキで帰ってきた男。
慎重に走れば、たかだか50キロくらい、問題なく走りとおせるはずだ。
たとえ、その50キロの全線がワインディングだとしても……
エンジンブレーキとリアブレーキ、それに何より状況判断をたよりに走るのだが。
これがとにかく神経の疲れる作業で、ひとつ曲がるごとに削られてゆく。
あんなに曲がりたがってたのが、今ははるか昔のようだ(´・ω・`)
とはいえ、「トラブルは楽しむ」のが俺のスタイル。

「おー! こえー! でも何だかんだ、けっこー走れ……あぶ! あぶねぇ!」
大騒ぎしながら、木漏れ日の中を走ってゆく。
やがて奥入瀬渓谷に入り、せっかくの景色の中を、ひいひい言いながら。
ようやく、お目当てのガソリンスタンドにたどり着いた。

そこで写真の「黄色い容器に入ったブレーキフルード」を450円で購入。
かなり長い在庫だったらしく、いろいろと汚れていたが、今の俺には天の妙薬。
ありがたくリザーバタンクに足し、ほっと胸をなでおろした。
スタンドの片隅でエア抜きし、ブレーキに手ごたえが出てきたところで。
さて、それじゃあ奥入瀬を戻って、十和田湖で休もう。
フロントノーブレーキの疲労ですっかり重くなった身体を引きずり、十和田湖へ向かう。

前回、泊まった公園「レークパークうたるべ」は、変わらぬ顔で俺を迎えてくれた。
ここはテントが張れないので、写真の東屋で寝ることになる。
ま、言っても二回目の宿泊だし、段取りは慣れてるから問題ない。

荷物を下ろしたら、東屋の椅子に腰かけて、まずは景色をのんびりながめる。

テントを張らないぶん、準備はさらに簡単だ。

ジャックダニエルの十和田湖冷水割り。
いや、レークパークの水道の水だから、別に十和田湖の水ではないんだけど。
ま、雰囲気だよ、雰囲気。

晩メシはドライフルーツ、茎わかめ、かぼちゃの種、ビーフジャーキー。
そしていちばん大事なカロリー源の、ジャックダニエル(・∀・)
これらで済ませられるから、どこにも寄らずに走って、何も買わずに野宿できるのだ。
名物とか食わないと気に入らない人は無理だけど、こんなツーリングも楽しいよ?

日が暮れたら、持ってきた本を読んでみたり。
もっとも、今日はブレーキ騒ぎで疲れたから、すぐにまぶたが重くなってくる。
それじゃあこっちのランタンは消して、キャンドルの方を付けようか。
これも雰囲気(・∀・)

虫よけを塗り、キャンドルと蚊取りに火をつけて。
なんとなくぼんやりしながら、今日のことを思い返しつつ、酒杯を傾けていると。
あおん、と鳴き声が聞こえてきた。

野良猫が、「なんか食うものを寄越せ」とやってきたのだ。
だがしかし、ビーフジャーキーは味が濃すぎるし、他にヤツの食えそうなものはない。
一応、ドライフルーツを投げてみたが、見向きもしねぇ。

それでも、
辛抱づよく待ってる猫がかわいいので、少し話をする。
今日の峠は楽しかったとか、ブレーキフルードが漏れてさぁとか、そんな話をたんたんと。
もちろん猫の方は、特に興味を持った様子もなく、しばらくこっちを見ていたが。
やがて、餌をくれないと分かったのだろう、静かに去っていった。
つれないねぇと苦笑したら、さて、さすがに眠くて起きてられないや。
シュラフ代わりのシーツにくるまった俺は、大きなあくびをひとつして。
十和田のほとりで、幸せな眠りについた。

そんな、
いろいろびっくりだった二日目の話。