数分ほど走って、近くのコンビニへと到着する。
朝メシついでにSNSで「生きてる報告」をし、東へ向かって走りだす。
と、すぐに雨が降ってきた。
ちょっと迷ったが、道端に停まってカッパを着込む。
カッパを着て走り出し、ものの30秒。
お察しの通り、バキッと雨が上がった。
空が晴れてきて、アホほど蒸してくる。
このままだと走るサウナ、痩せるか倒れるかどっちかだ。
仕方なくまた停まって、脱いだカッパを荷物へくくる。
ガソリンが心もとなかったので、スタンドが開くまで待とう。
15分ほど待って、スタンドが開店したら給油。
ぶん回してもリッター60、のんびりだと70走る白カブさん。
「この燃費って地味だけど、ツーリングでは最強の武器だよな」
俺(おむすび)も、白カブさん(ガソリン)も満腹になったら、今度こそ東へガンガン進もう。
無理です。
雨が降ったり止んだり忙しすぎる。
ここから先、とにかくこの「降ったり止んだり」に、混老(ホンロー)、もとい、翻弄された。
蒸し暑くて、カッパを着っぱなしに出来ないのが痛い。
空はとにかく「ほーら、降らすでー!」と煽(あお)ってくる。
ざけんな、どうせ止むならもう着ねぇ! 濡れてもすぐ乾くしな。
なんて開き直ると、狂ったように土砂降って、パンツまでびしょ濡れ。
昨日からパンツの受難が続きますなぁ(自業自得です)。
気まぐれな天気に振り回されるが、お天道様に文句を言っても始まらない。
頑張って走りましょう。
道案内のGoogle先輩、いいルート探してください。
案内された道は、国道162号。
京都から小浜へ抜ける、実に楽しいワインディングだ。
さすがGoogle先輩、俺の好みをカンペキに理解してらっしゃる。
その調子で、クソ峠とか曲がった道を見つけて下さいぬ。
国道162は、ここいら屈指の人気ルート。
休日ともなれば、たくさんのバイクに出会える道だ。
俺も最初から、その覚悟で走り出したのだが……
「台風が近づいてる雨の平日」に走ってるバカは、俺くらいしか居なかった。
前後に誰もいない状態で162とか、すげえゼータクだよなぁ。
貸切状態の162を、白カブなりに気持ちよくすっ飛ばし。
あっという間に、敦賀へ向かう国道27号線へ出る。
混んでることが多い道なんだが、ここも警戒したほどじゃなかった。
ほとんど停まらずにここを抜けたのって、もしかしたら初めてかも知れん。
27号の道の駅、若狭熊川宿へ入って休憩をとる。
時刻は8:10くらい。道が空いてたから、まだまだ早い。
明日に余裕を持ちたいから、今日は出来るだけ距離を稼いでおこう。
急いでるって程じゃないけど、それなりに先へ進みたい。
そんな時ほど、くそ長いトンネル信号に引っ掛かったり。
長っげぇなぁ待たせ過ぎだろ、とブツブツ言いながら、やっと信号が変わって走り出す。
真っ暗で、クソ狭くて、水がガンガン流れてる、なかなかタフなトンネルだった。
千葉の素掘りトンネルのが、短いぶん走りやすいかな。
琵琶湖の北を抜けて、たぶん長浜あたり。
ここまで来る間もずっと、雨の「降ったり止んだり攻撃」に辟易(へきえき)としている。
文句を言っても仕方ないとは言え、ストレスであることは間違いない。
何か対策をとらないと、精神的な疲れがハンパない。
つわけで最終的に「ガラスの仮面・北島マヤ作戦」を採用する。
これには非常に高度な精神操作と、強力な自己暗示が必要となる。
素人にはお薦めできない、危険な技術だ。
方法はシンプル。以下のセリフをつぶやき、自己暗示をかけるだけ。
「私はモデル。カッパのモデル。だから脱いだり着たりするのは当たり前、ちっとも苦にならないの」
こうして心の安寧を得た俺は、改めて帰路を進む。
と思ったら鬼のような土砂降りとか、明らかに悪意を感じる。
しかも「カッパモデルだから平気っ!」と独り言ちつつカッパ着たら。
直後に雨が止むと言う、煽ってるとしか思えない鬼畜っぷり。
でも、大丈夫。
世界トップクラスのカッパモデルだから。
いつか世界のカッパモデルのあこがれ、紅(くれない)イージスを着る運命だから。
雨なんてガンガン降ってくれていいからね?
台風も連れて来てくれて、一向に構わないよ?
なんならカッパの連続早着替えだって見せるよ?
てな感じで、悟りの境地に達したまま走れば。
ほら、晴れた。
どうせこのあとも降るんだろうけど、ノープロブレム。
紅イージスを目指す俺に死角はないのだ。
相変わらず、琴線に触れた景色は貪欲に撮影してゆくスタイル。
この、普段は水面下なのだろう岩ゴツゴツと、その上の緑とのコントラストとか、たまんなく良いよね。
わかんないよね。
いいや、自己完結しとくから。
もう何度目だろう、これは今からカッパを着るところかな。
そして脱いだ後の写真。後ろの青空で判断できる。
道はいつの間にか長野県に入った。
いつの間にかつーか、木曽あたりからは行きと風景が変わらないから、撮らずに走りを優先した。
何より、木曽に入った段階で「今日中に帰り着こう」と言う欲が出たのだ。
明日まるまる一日を休みに充てられるのは、正直とっても魅力的。
長野のどこだっけか、狭ッ苦しいクソ峠を駆ける白カブさん。
写真のために停まる場所を探したので、ここはそこそこ道幅がある。
でも基本的には、狭くてうねうねと曲がるワインディングが続くので楽しい。
下りに入って攻め始めると、ウエット路面どころか顔に当たる雨さえも気にならない。
速度を殺さないよう注意を払いつつ、次々と迫る曲がり道を抜けてゆく。
ロードレースってよりは、オートレースに近いイメージかな。
いや、本物とは天地の差だって、俺がいちばん解ってるからツッコミは要らないよ。
アンダーパワーが効を奏し、アクセルをガンガン開けられるのが楽しすぎ。
ゲラっゲラ笑いながら、下まで一気に駆け抜けた。
めっちゃ面白かった。
街中へ出たのでスイッチを切り替え、のんびりモードで走っていると。
おおっ! 虹だっ! 綺麗だぁ!
最後に、こんな
ご褒美がもらえるなんて最高だなぁ。
なんて、この時は呑気に表情を弛(ゆる)ませていた。
「これが最後だって、誰が言った?」
神様、いや、Google先輩の声なき声など、想像することもできずに。
さあ、あとは慣れた関東の道だ。
油断しないで走れば、今晩のうちに家へ着け……
まてよ。
いつもどおり帰るのは、面白くねぇんじゃねえか?
悪い癖が出た。
人生の判断基準が「面白いかどうか」と言う生き方に後悔はないけど。
つわけでここから先、家までのルートをお任せしてみる事にした。
誰にってもちろん、今回の主役・Google先輩にだ。
「んじゃ先輩、お願いしま……おおう、イキナリそっちっすか? 暴れん坊だなぁwww」
俺ならまず選ばない、国道254メインのルートを選ぶ先輩に苦笑しつつ。
決めたことはやろうと、案内どおり走り出す。
この段階で「今日中に帰るのを諦める」と言う選択肢を用意した。
混んでるだろうし、群馬経由になるから寄り道したくなる可能性もあるからだ。
んで、相変わらず降ったり止んだりの中を走ってると。
「ぎゃははは! やるじゃん、先輩っ!」
先輩が表示する画面を見て、俺はひとり爆笑する。
何この節操のない曲がり道www
こんなの楽しくないわけないじゃん!
OK先輩、こうなりゃトコトン付き合うよ!
長野あたりの254が、こんなステキ道だとは知らなかったよ。
先入観で「いつも混んでるつまんない道」としか思ってなかった。
いやぁ、反省と同時に先輩には感謝だね。
暗いウェットの峠道、しかもほとんど初見のルート。
なのに次のコーナーの曲がり方がわかってる。
雨が上がって霧が出てきても、それは変わらない。
「すげー! 霧なのにいいペース作れてる! ラリーみてぇじゃん! なんだこれクソ楽しい!」
すると、先輩が「5分早く着くルートあるぜ」おっしゃる。
もちろん行きますよ、どうせバカな道でしょ?
俺はもう、先輩を完全に信頼してますリスペクトです。
「んじゃ、こっち行ってみな」
ぎゃははは! そうそう、そう言うことなんですよ!
なんすか先輩、俺に嬉ションさせたいんすか?
でたらめに御機嫌の49歳、ナビに笑いかけながらひた走る。
群馬に入っても先輩の暴走は止まらない。
「そこ右、500メートルで左、すぐにもう一回左で700メートルな」
もう一度と言われても絶対無理な複雑ルートを、Google先輩に言われるがまま、ニコニコで走ってゆく。
「群馬は何回も来てるけど、こんな道知らねえ!」
そら、こんな住宅街を通るルーティング、ぜってーしねえものフツーは。
5割はこんな感じの場所を走り。
残りは住宅街とか、街灯もない高速の下とか。
もうね、最後の最後で完全にGoogle先輩のファンですよ。
後で確認してみたら驚くことに、ルートとしては確かに最短つーか真っ直ぐ帰ってきてた。
それを見て俺は、また大笑いする。
先輩、これからも一緒に走ろうね!
結局、夜中には自宅へたどり着き。
今回の夏ツーリングも、無事に終えることができた。
いや、今回のツーリング「は」か。
んじゃ最後、エンドロール代わりに後日談を。
目論(もくろ)みどおり、
丸一日の休みができたので、仕事へゆくナオミさんを見送ったあと。
ギシギシしてたテントポールに注油したり。
今回使った道具の、手入れとか修理とかして過ごす。
そんで翌日、仕事へ行った昼休みには。
頑張った相棒のオイル交換をしてやった。
オイルはいつもの「バイク板推奨油」AZだ。
タンクパッドは
いつの間にかなくなってたので、代わりに肉球パッドを貼ってみた。
特に可もなく不可もなく。
つわけでムダに長いレポート、付き合ってくれてありがとう。
スーパーカブでわかってた以上に、クロスカブはやれる子だったよ。
つーかここまで楽しく走れるバイクとは思わなかった。
ポジションとか、ちょっとしたギアの特性の違いなんだろうけど、こいつは侮れないや。
あと、想像を遥かに越えて、Googleマップのナビゲーションは「俺向き」だった事を特筆したい。
確かに「目的地へ行く」ことを主眼にするとダメな子かも知れない。
だが、「俺にとっては」道中を楽しめる最高のツールだった。
願わくは、このまま暴れん坊ナビであり続けて欲しい。
作ってる人と、改良を待ってる人には悪いけど。
てな感じで、とりあえず。クロスカブ最高(・∀・)
4日半・2000キロ、トラブルなし。
お疲れ様でした。
さて、来年に向けて、明日は何から始めようか?
2019夏ツーリング ~西へ、先輩と~ /了