待ちに待った、夏のツーリング第一弾、山陽~九州~山陰ツーリングの朝。
ワクワクしながら起きてみると、前日の予想通り雨。しかも七月では最大級だとか言う、台風マンニィのおまけ付きだ。まあ、話としては無難な立ち上がりより面白いし、寝てる間にうまくかわせれば、そのあとは台風一過の青空に違いない。
そう、アタリをつけて、連休前、最後の仕事に向う。
仕事が終わり、午後二時。
まだ、雨はそれほど強くない。
直前で荷物が増えたので、それをしっかり固定するために、ライコランドでロープを買ってから、午後2:30、柏インターから常磐道に乗る。常磐から首都高と順調に進んでゆくと、雨脚がだんだん強くなってくる。ま、順調つーか、土曜の午後なんで、アホほど混んではいたんだが。
今回は、東名を使わずに中央道から長野経由で名神高速に乗る予定だ。
なぜなら、その方が面白そうだから。
MP3プレイヤーで音楽を聴きながら、のんびり100~120前後で流しつつ、距離を稼ぐ。今回は、メンドウなことにならない速度で走り、だいだい200から300キロごとに給油ついでに休憩する、というプランを事前に決めていた。半日で長野経由の琵琶湖行き。
それほどきつい企画じゃないが、問題は台風だ。
台風で先にいけなくなる前に、何とか琵琶湖にたどり着きたい。
とりあえず首都高を抜け、談合坂SAで最初の給油と休憩をとる。
そして、この段階ですでに誤算。
防水のはずのブーツに水が浸入してくる。買ってからこっち、ロクにメンテもしないで走り倒してたので、防水効果が薄れていたようだ。とは言っても、防水効果自体は今すぐどうこう出来る事ではない。とりあえず我慢の方向。
ただ、どうせまた濡れてしまうのだが、気持ち悪いので靴下だけ換える。今日は琵琶湖の近く、多賀SAのホテルに泊まる予定なので、そこで濡れたものを乾かす余裕があるだろうと考え、贅沢に着替えを使ってやるのだ。
ホテルが取れなかったら? そりゃ、その時になってから考えればいい。
雨の中央道は、がらがらに空いていて、気分よく走れた。
ただ、甲府あたりから異常に風が強くなってきて、『ああ、台風が来てるんだねぇ』と改めて実感させられる。つーか連休前の土曜だってのに、走ってる単車が俺しかいないってのは、不安を通り越して、むしろ楽しくなってくる。
そのうち、シャレにならないくらい風と雨が強くなってきて、巡航速度は完全に100前後まで落ちる。あまり厳しいときは、トラックの後ろについて、雨と風をよけながら走った。ヘッドホンからは今回用に選んだ、飛ばさない系の曲。
Eye of the Tiger, Get it on (power station version.), Wild Thing,
The One And Only, Just Like Paradise, Feel So Good, and etc.
ミドルテンポのロックに後押ししてもらいながら、俺は台風4号マンニィに立ち向かう。だが、マンニィは中央道のダイナミックなレイアウトを味方につけて、俺のゆく手を阻む。平たく言うと、雨と風の中、ツイスト+アップダウンの道は飛ばせない。
ひぃひぃ言いながら、8時前ころ、ようやく多賀SAに到着した。
荷物を降ろして、SAのホテルに向う。
日本でふたつしかないSAのホテルの、さらに5部屋しかないシングルルームは、さすがに満室だった。だが、ホテルの受付の、地味な顔立ちのお姉ちゃんが『ツインは空いている』言うので、6000ナンボだったかを前払いして、キーを受け取る。
わりと普通のビジネスホテル系の部屋だ。
↑写真右側のように、とりあえず濡れたブーツや下着を洗って乾かす。
それからてめえの身体も洗って乾かし、ドライアーが頑張ってる間に夕食。
味噌カツ丼。
正直、甘すぎて往生した。
が、これは、このあと経験する地獄への序章に過ぎなかった。俺は、かみだ。これ以上走らないと決めた時、俺にとって空気の次に必要なモノは。暴風雨の中を走り、風呂に入って飯を食い終わったあと、かみに必要なものは。
そう、ビールだ。
これこそ、いわゆる真理ってヤツだ。だが、ここは日本でふたつしかない、サービスエリア内のホテルなのである。高速道路に併設された、他のSAの施設と、基本スピリッツは変らない。つまりこの施設には、あろうことか酒が売っていないのだ。
俺、マンニィと戦うのに忙しくて、買出し行ってないのに。
したね、絶望。
見上げたね、天井。
叫んだね、俺。
結局、存在は知っていて、自分の小説にも書いたことはあるけれど、口にするのは初めてなクラウスターラーというビールを発見し、泣く泣く買ってきた。いわゆる、ノンアルコールビールだ。 ヒトとして、いや、ビールとしてかなりアレな存在。
このときほど、オノレのウカツさを嘆いたことはない。皆様におかれましても、ツーリングの際は必ず、バッグの中にアルコールを入れておくことをお忘れなく。いや、ホント切に。これほど切ないこと、まあ、そうはないよ。
てなわけで、最初の夜はシラフのまま、悲しく更けていったのだった。
つづく