秩父山賊宴会 ―初冬の山賊・発動編―
2012年 12月 01日
楽しく呑んだくれるンだが、寒いから酔いが回らない。
正確に言うと、おそらく酔っ払ってるんだが、酔っ払ったときの火照りや、気だるさを感じない。
当然、呑むペースはハイスピードモード。
赤ワイン、秩父白ワイン、牛久白ワインと、つぎつぎビンが空いてゆく。
それでもまだワインはあるし、なんならジャックダニエルはまるまる二本のこってる。
酒の尽きる心配がないから、俺のご機嫌は上がってゆくばかりだ。
ガソリンをポンピングして、次々に肉団子をゆでる。
つっても、自分はもうお腹いっぱいだから、誰かに食わせるのが主になる。
KYくん、うわばん、しき、と団子を配って回り、気分はもうeisukeさん。
やがてKYくんが帰ってゆき、後を追うようにタツヤも立ち上がる。
そこへ、よしなし先生の怒声が上がった。
「なんだよ、タツヤ。どこに行くんだ?」
「帰るんだよ。あったかいお風呂と布団が待ってるんだ」
「なんだ寒いのか。じゃあ、火に近づけよ」
いや、そういうことじゃないと思うよ? よしなし先生。
罵声を浴びながらタツヤが帰ってゆくと、入れ違いにクルマがやってくる。
秩父の紅ニ点、ピンキー&やよいちゃんの、物好きコンビだ。
この寒空の元、わざわざ仕事の研修帰りに寄ってくれたらしい。
それを聞いたしきが、すばやく暖かいうどんを取り分けて、ふたりへ渡している。
おぉ、気が利くなぁと思ってたら、「いや、あまりモンです。お腹いっぱいなんで」とヒトコト。
おそらく照れ隠し半分、気を使わせないためが半分ってトコだろう。
ホント、気持ちのいい男だ。
やつの気遣いを無駄にしちゃいけないので、周りは笑いながら、しきをいじる。
「あんだ、あまったの押し付けただけじゃねぇか」
「ひでぇヤツだ」
ニヤっと笑って返すしきの顔は、なんだかやけにオトコマエに見えた。
まあ、たぶん気のせいだけど。
ところで、俺には心配事があった。
ハイコンプのビューエルは、寒いと、とても始動性が悪い。
冬の朝など、毎回、緊張を強いられるし、昼休みに一回エンジンをかけておかないと、帰るときにはセルを回した瞬間、「んがっ……」と息継ぎするほどだ。かといってやわらかいオイルは、まあ、ほら、アレだろう? そして今晩、俺たちが夜を明かすのは、魔境、秩父の川原。
俺の経験つーか感覚で言えば、群馬の赤倉林道でやった雪中行軍のときより寒い場所だ。
「やべ、エンジンかけておかなくちゃ!」
「なに言ってんすか、かみさん?」
「バッカ、かけとかねーと、マジでかかんなくなるんだよ」
言い返しながらキーをオンにして、セルをひねる。
んがっ! んががが……きょきょきょ…………ぎょるっ……ぷすん。
「あーも、やっぱりだ! くっそ、少し休んで……よし、もういっちょ!」
んががっ! がるっがるっがるっ……ばるん! ばるん! どっどどっ、どっどどっ……
「かかった! あっぶねぇ!」
一発目でかからなかった時は、正直、ちょっと気が遠くなった(´・ω・`)
「ぎゃははは、それじゃあ俺が、国産の威力を見せましょう」
しきが笑いながら、キーオンしてセルを回すと、あっけなく始動するブルハチ。
国産水冷Vツイン対メリケン空冷Vツイン。
心なしか、右のユリシーズは腰が引けてるように見える。
がんばろうぜ、相棒(´・ω・`)
寒い中、焚き火に当たりながらしゃべって笑い。
やがて、呑んでないやよいちゃんが、クルマで家に帰ってゆく。
そのクルマに乗ってきたはずのピンキーは、まるっきし帰る気配がないが、これはまあ、いつもどおり。いいだけ酔っ払って出来上がったところで、気の毒なお母さんがお迎えに来てくれるのである。最初こそ、怪しげなヤロウどもばかりで、心配してたお母さんも、最近は慣れたようだ。
ま、自分の娘の方が、ある意味、山賊らしい山賊だからね。
その女山賊、早くも出来上がってきたようで。
お気に入りのろろちゃん相手に、なにやら妙な遊びを始める。
「あ、もしもし、ろろちゃん? 今、なにしてんの?」
と、ゴキゲンで話すピンキーが耳に当ててるのは、ごらんの通りただの薪ざっぽ。
突然、狂ったかのような行動をするピンキーに、周りは大爆笑だ。
俺もノリで「もしもし」とやったのだが、あとで写真を見たらあまりに痛々しいので割愛。
よしなしんトコに写真あるから、見たいヒトはそっちで(`・ω・´)キリッ
そんな風にバカやってると。
いよいよ、秩父が本気を出してきた。
周り中に白く霜が降り、目を離すと火から遠いすべてのモノが凍り始める。
「うお、ヤバいな。凍り始めた。ちと、溶かしてやるか」
キャンプ用必須バッグやグローブを並べ、焚き火に当てて霜を溶かす。
すると、しきのコットの後ろ側、座ってない部分も凍ってるというので、
ビシっとに火であぶり、溶かしてやる。
ノリノリの俺と、心配そうに見つめるろろちゃんのコントラストも、山賊名物。
やがて、絶好調になってきた、かみさん43歳、哀しきマイトガイ。
「おうふ、ヘルメットも凍ってるじゃないかデュフフフ……」
泥酔気味のマヌケな笑顔でユリシーズに近づくと、ヘルメットを持って舞い戻り。
ヘルメット・オン・ファイア。
ろろちゃんはすでに、何かをあきらめた表情で見守ってくれている。
いつもハラハラさせてごめんね?
とまあ、「寒くて酔えん」とか言いながら、しこたま呑んでいいだけ酔っ払い。
みなが大騒ぎする中、俺はひと足先にギブアップ。「もう寝るのか」と、からかわれながらもテントの中へ引っ込み、買ったばかりのダウンシュラフへもぐりこむ。聞こえてくるみんなの楽しそうな声に、なんどか後ろ髪を引かれつつ、テントを出たり入ったり。
最後は秘密兵器<耳栓>をねじ込む。
静寂と満足に包まれて、
俺は心地よい眠りについた。
あけて翌朝。
新しいシュラフは、冷気をカンペキに遮断してくれ。
100均の耳栓も、きちんと仕事をこなしてくれたようだ。
そのため、今迄でイチバン深い眠りにつけた俺は、実に爽快な気分で目を覚ます。
外はまだ霜が降りて、空気が肌を刺すように冷たい。
「おはよう! いやぁ、気持ちよく眠れたよ! ダウンシュラフと耳栓、最強だな!」
などと能天気に騒いでると、よしなしがあきれたように、「タツヤが来たのに気づかなかったんですか?」と聞いてくる。筑波へ行くといってたのだが、その前にこちらへ寄ったらしい。もちろんビタイチ知らない俺がびっくりしていると、うわばんもうなずきながら、「爆音でしたよ」と半笑い。
迷惑な話だが、秩父では圧倒的な権力を持ってるオトコだけに、文句も言えなかったのだろう。
こっちのホームに来たときにでも、いいだけ叩いてやろう。
クルマのよしなしとうわばんは、撤収にさほど時間がかからない。
なので、ゴミを片付けてくれたりしてる。
ろろちゃんやしきも、撤収を半分ほど終えている。
つっても各自勝手にやって、勝手に帰るのがマーマレードスタイル。
俺はアルストを持ってくると、お湯を沸かし始めた。
と、昨日ろろちゃんにもらったお吸い物が見当たらない。
「あれ? ろろちゃんにもらったお吸い物がないぞ? しかたない、白湯でも飲むか」
「しょうがないなぁ。かみさん、コーヒーあげるよ」
「おぉ、ありがとう!」
顆粒タイプのコーヒーをもらって、ゆっくりと飲みながら、朝の空気を楽しむ。
焚き火を焚いて騒ぐ野宴もいいが、ピンと張り詰めた冬の朝の空気もいい。
これで連休だったら、どこまででも走っていけるのになぁ。
ふと、写真を撮りたくなったので、みなの単車を撮って回る。
青空に映える、ろろちゃんのBMW‐F800S。
夜はLEDでド派手だが、明るいとマットブラックが渋い、しきのブルバード800。
そして、俺のユリシーズと、一夜を過ごした<屋根だけテント>。
見たまんま、普通のテントより、地べたに直な分だけ寒いんだが、ダウンシュラフは偉大だ。
でも、さすがにもうコットは寒いだろうから、次回はまた別の装備を持ってくる予定。
予定つーかもう買っちゃったから、決定事項(´▽`)
ユリシーズの車体は、日のあたらない部分が、まだ霜で覆われている。
「そうとう寒かっただろうから、こらあ、充分に暖めないと機嫌が悪いだろうなぁ」
春菊(ライト内ハムスターの名前)も、心なしかスネてるっぽい。
なんて写真を撮って遊びながら、ちんたら撤収していると。
準備の出来た、よしなし、うわばん、しきと、順に片手を上げて帰ってゆく。
ろろちゃんはテントを干すのに時間がかかったのだろう、まだ作業中だ。
そんなろろちゃんより、ひと足さきに撤収を終え、「またね」と笑って走り出したところで。
本日の山賊宴会は、無事、トラブルなく終了。
いつものメンツ、初参加の長いダチ、わざわざ顔を出してくれた面々。
みんなに感謝したくなる、相変わらず笑い倒した野宴だった。
やっぱり、寒い中で火を焚くのが、イチバン楽しいね。
さて、今年もそろそろカウントダウンだけど。
山賊にとっては、冬こそオンシーズン。
宴会は無理かもしれないけど、
年内にもう一回くらい、ソロで野宿しようかな。
秩父山賊宴会 ―初冬の山賊― / 了
文責/かみ