星空の山賊たち(その三)
2012年 09月 15日
eisukeさんの買ってきたワインは、甘口のジュースに近い飲み口だった。
お酒の苦手なヒトも呑めちゃうけど、呑みすぎたらワル酔い必至な感じのヤツね。
値段と味のバランスはよかったから、俺も今度、買ってみようと思う。
それはともかく、酔っ払ってテンション上がっちゃった俺。
イキオイで買って来た玉子を使って。
目玉焼きを作り始める。
今思い返しても、なんで10個入りパックを買ったのかは理解できん。
まあ、食いたかったんだろう。
たまご大好きだから。
目玉焼きをうれしそうにガッつく俺を尻目に。
みんなはちょっと休憩。
理由は上の写真のろろちゃんとマル、その『視線の行く先』を見ればわかるだろう。
eisukeさんが料理を始めたのだ。
やがて、eisukeさんから、「出来たよー!」の声が上がる。
さばの塩焼き。
玉子食って満足してた俺も、思わず手を伸ばしてしまう、美味しそうな香りだ。
そしてもちろん、とっても美味い(´▽`)
ほかにもネギ焼きなど、色々と出てくるツマミに、歓声を上げる山賊。
そんな時、ふとろろちゃんが悲鳴を上げる。
「マ、マルちゃん! まだソフトクリーム食ってるの?」
驚いてマルを見ると、確かに、マルの手にはソフトクリームのコーンが握られている。
「は? なんでソフトクリームが残ってるんだ?」
不可解な光景に、俺は思わずそう叫んだ。
さっきクルマで買い出しに行ってから、かれこれ数時間。
あのときに買ったソフトクリームが残ってるわけないのだが、しかし、マルの手にあるのは、間違いなくあのときのコーンだ。「おめ、クリームだけ全部なめて、コーンはかじらずに取っておいたのか?」と、驚愕におののきながら詰め寄ると。
「腹いっぱいだったんだよ」
いや、そーじゃねぇ! そういう問題じゃ、断じてねぇ!
「なんでコーンだけ残してんだよ!」
「なんでだろ?」
おまえに答えられないなら、答えられる人類はいねぇよ。
大笑いしたら、アイスが食いたい。
いや、もちろんおなか一杯なのだが、食いたいと思っちゃったんだから仕方ない。
つわけでマルをせきたて、コンビニへ買い出しにゆく。そこでみんなに、おにぎりやアイスを買い、レジへ並ぼうとした瞬間。視界のハシに写った『コーンフレーク』に、心をガッチリキャッチされるマイトガイ。
ソッコーでシリアルの袋をかごに入れ、当然、牛乳500mlもかごに入れ。
意気揚々と山賊ポイントへ戻る。
戻ってきたら、みんなにアイスやおにぎりを渡し、さっそくシリアルの袋をあける。
そこへ牛乳をドボドボと流し込めば、準備完了。
あとはひたすら食らうだけ。
「ちょ、かみさん! 袋に直で牛乳を流し込んだんですか?」
よしなしが爆笑しながら叫ぶのを尻目に、ひたすらシリアルをパクつく42歳。「おぉ、たまに食うと美味めぇな」などと騒ぎながら食ってゆくのだが。シリアル200gに牛乳500mlと言えば、レブのポンドステーキより多いわけで。
やがてスプーンの動きが、緩慢(かんまん)になってくる。
「う……腹いっぱい……」
「当たり前だバカ!」
それでもなんとか、すべて食いきった。
かみさん、がんばった。
お腹一杯になった山賊は、思い思いに夜をすごす。
まだ呑む者、携帯でミクシィに報告する者、話をする者。
そして、食いすぎて動けなくなり、横になってうなる者。
「うぅ、腹の中でシリアルがふくらむ~!」
悲鳴を上げながら転がる俺に、eisukeさんの優しい言葉。
「ははは、大丈夫かい? なんか、かわいそうだなぁ」
もちろん他の連中は、苦笑いするか、完全放置。
これぞ山賊宴会らしい、『自己責任』だ(ちょっと違います)。
結局、耐え切れなくなって茂みの方へゆき、リバースして戻ってくる。
「かみさん、大丈夫かい?」
「だいじょぶ! 吐いたら超ぉ楽になった。むしろ酒呑みたい、火ぃ燃やしたい!」
「がはははっ! おめーはホントにバカだな」
すっかり元気になった俺は、みんなの話に加わった。ネットをはじめたきっかけの話から、ろろちゃんの昔のサイトの話を聞いて、みんなで大爆笑したり。相変わらずの調子で、みな呑んだくれ騒ぎつつも、焚き火がないせいだろう。
総体的におだやかで、まったりした時間が流れる。
と、誰かが空を見上げてつぶやいた。
「星がきれいだな」
見上げた空には、降ってきそうなほど満天の星。
「よく見ると、星の奥行きがわかるね。いろんな星が層になってる」
ろろちゃんが感心したような声を上げる。
俺は思わず、ミクシィに「星がすげぇ」と書き込んだ。
eisukeさんが立ち上がり、ランタンの火を消す。
すると、さらに星の数が増え、その中を飛行機が、赤と青の光を点滅させながら、ゆっくりと横切ってゆく。ずーっと見ていると、急に雲がかかったり、また晴れたりと、星空は思いのほか忙しく表情を変えてゆく。
何度も見たことはあるけれど、何度見ても飽きない光景に。
山賊たちは、息を潜めて長いこと見入っていた。
寝転んで星を眺めていると、だんだん眠くなってくる。
まっ先によしなしが寝オチし、マルはテント、eisukeさんはクルマの中へ。「雨はゼッタイに降らない」そう宣言した俺とろろちゃんは、ふたりで満天の星を眺めながら、それぞれのベッドへゴロリと横になり、タバコを吸ったり酒を呑んだり。
そのまま眠ろうとしたのだが、しかし、なかなか寝付けない。
河のそばだけに風通しはよいのだが、いかんせん、空気が湿り気を帯びていて、涼しいんだか蒸し暑いんだか、自分でもよくわからない状態なのだ。仕方ないので、時々起き上がったりしながら、ろろちゃんとポツリポツリ話しこむ。
そしてその間も、視線はずーっと星空を眺めている。
みんなでバカ話も楽しいけれど、これもまた野宴の醍醐味、ステキな時間だ。
と、マルがごそごそと起きてきた。
外で風に吹かれてる俺らでも、蒸し暑いこんな夜。
なのにテントの中にいるんだから、そら寝づらいだろう。
それはわかる。わかるけど、でもさマルちゃん。
それはもう、見せてくれなくていいんだよ?
つーかむしろ、永遠に仕舞っておいて欲しいな、ホント。
テントへ戻ってゆくジョイトイに苦笑したら、もう、さすがに遅い時間だ。虫に食われないよう、長袖を着てジャージのスソを付け直す。それから熟睡できるように耳栓をして、防虫ネットをかぶり、シュラフカバーにもぐりこんだところで。
俺はようやく、眠りの中へ落ちていった。
明けて翌朝。
目を覚ますと、みんなはすでに起きてて、撤収作業もほとんど終わっている。
「うおぉ、よく寝たー! やっぱ耳栓すると熟睡できるなぁ」
騒ぎながら起き上がる、かみさん42歳。
ウィズ・防虫ネット。
起き上がって一服していると、まずはマルが準備を終える。
これから、家族でぶどう狩りにゆくのだ。
みんなに、「家族サービス、えらいなぁ」「ぶどう狩り楽しそうじゃん」「ワインがあるなら俺も行くんだがな」などとからかわれながら、M字開脚のオーソリティは、愛機FTRにまたがって、しぶしぶと帰っていった。
ろろちゃんのBMWは、駐車場においてあるので、そこまでクルマに乗せてもらう。
準備ができたeisukeさんと一緒に、クルマに乗って去っていった。
つってもこのあと、俺の家まで遊びに来るんだけどね。
最後によしなしが荷物満載のSLにまたがり、「それじゃ」と手を上げたところで。
本日の山賊宴会は、無事にその幕を下ろす。
珍しく焚き火もなく、いつもよりまったりとした野宴だったが。
みんなと星を眺めた時間は、なんだかとても心地よかった。
見慣れたメンツで、食って呑んでしゃべっただけ。ただそれだけの、でも、何度やっても飽きの来ない、すばらしきマンネリ。最強のワンパターンは、これからも何度となく繰り返すだろう。そして、そのたびに楽しく酔って、大笑いするんだろう。
そんな嬉しい予想に笑みを浮かべながら、俺はユリシーズにまたがると。
柏へ向けて、アクセルを開けた。
ま、でも次回はまた、いいだけ焚き火を燃やすだろうけどね。
山賊宴会レポート・了/文責:かみ