野宿旅 in 房総半島 1/2
2006年 11月 29日
基本的に俺は、自分の心の声に逆らわない人生を目標に掲げてる。
なので、やりたいと思ったら即、行動するのだ。
幸い、誕生日休暇と称して翌日の30日を休診にしてあるから、なんの障害もない。
29日の午後、仕事を終えた俺はいちど家に帰り、出発準備をしていた。
するとそこへ、一本の電話。
携帯画面を見てみると、ダチのうわばんだ。
「ったくめんどくせーなーしょーがねーなー」とブツブツ言いながら電話に出る。
「もしもし? あんだ?」
「あ、かみさん。今、家にいます?」
「これから出かけるトコだ。キサマに割く時間はない」
「いや、俺もこれから仕事なんですけどね。誕生日プレゼントを持ってきたんですよ。これなら、かみさん間違いなく喜ぶと思うんですが」
「早く言え。早く来い」
『キサマに割く時間はない』と言う前言をコンマ二秒でひるがえすと、うわばんが来るのを待つ。
程なくやってきたヤツは、ジャックダニエルをぶら下げていた。
そう言うことなら、家に入れてやってもいいぞ。なんか飲むか?
しばらく話してから、仕事へ行くと言うヤツと共に家を出ると。
俺はRocketIIIに荷物を積んで、 ひとり気まぐれツーリングに出発した。
時間は午後4時。程なく暗くなるだろうから、明るいうちに少しでも走っておきたい。
いや、暗くたって走るけど。
今回の目的は、野宿。
場所はどこでもいいし、極端、林道の道っぱた的な『イカにも野宿』って感じじゃなくてもいい。
むしろ、家のすぐそばとかでもいいくらいだ。
とにかく野宿することそのものが目的。
要は単車のそばにシュラフで転がって、酒を飲みたいだけなのだ。
単車好きなら、わりと夢見る例のアレ。
さらに焚き火ができれば、最高にして完璧なのだが、時間も遅いし無理はすまい。
ちんたらトコトコ、夏のツーリングみたいにゆっくり走ろう。
16号を西から南へ、千葉北を越えるころには日が暮れ始める。
やがてすっかり暗くなり、野宿ポイント見つけづらいなぁ、どうしようかなぁと考えているところで、木更津の手前あたりにブックオフ発見。ちょいと寄り道し、トイレついでに、野宿用の本を仕入れよう。
トイレを借りて、店内を物色しながら携帯を見ると。
おや? poitaさんからメールだ。
なんだろうと開いてみれば、どうやら例のクラッチの話。
荒っぽく使ってちょっと減ると滑り出したわけだが、それはつまり最初の調整段階で引きが強すぎたってコトらしい。なるほど。 ってなわけで返事をして、ブックオフの駐車場で、クラッチの調整。
ちなみに、買いこんだ本。
極道兵器。タイトルで負けた。中身も最高にバカでおもしろい。
さて、クラッチを調整して、今回の趣旨には反するが、バカ開けしながら国道を走ってみる。
すると、おや? なんかいいんじゃね? 滑ってないんじゃね?
少なくとも高いギアですべることがなくなった。
一速全開だと、滑ってるかなぁ? って程度に症状が改善される。
「バーネットのクラッチ要らなかったかなぁ」
とも思ったが、まあ、俺とかpoitaさんみたいな使い方なら、どっちにしろ早晩、クラッチがいかれることは目に見えている。いずれパワーアップも目論んでいるのだし、強化クラッチは必要だろう。
と言うことで、この間のぐるぐるで待ち合わせたコンビに入り、poitaさんに電話する。
出なかったので留守電を残し、またも16号をひた走る。
よく考えたら、今日は平日なワケで、帰宅ラッシュどまんなか。
調子の良くなったRIIIで、バシバシすり抜け大会。
どのクチが「のんびりトコトコ」とか言ってンだって話だ。
一気に南下して、道の駅「きょなん」に到着。
ここで地図を確認しながらコーヒーを飲むも、心はだいぶアルコーリング。
アルコールがコーリングしてるのである。
こ~の声が聞こえ~るかい♪ なのである。
少し下って、富浦あたりの道の駅で寝ることにする。
なぜなら、空が曇りで月に朧がかかっているため、満天の星が期待できないからだ。星がないなら、本でも読もう。そのためには明かりがあった方がいい。LEDライトって読みづらいんだよね。
「ナメた格好(半ヘル、ジーパン)のわりに寒くなかったなぁ」
と思いつつ、到着したのが道の駅『とみうら』。
ここ、すぐそばに高速の入り口から、スーパーから、スタンドから 、やたらとなんでもある。
全然、不自由がなくて、正直、俺のイメージしてた野宿っぽくはない。
っぽくはないが、しかし、そんなことよりも。
もう、俺の心が『バイクのそばで酒』を求めているのだ。
(アル)こ~(ル)の声が聞こえちゃってるのだ。
適当に駐車して。
早速、荷物を広げて、大事なものを引っ張り出す。
イエス!
コレさえあれば、後はどうにかなるさ。
そして会場を整備。
準備完了。
エ~ンド。
イッツ・パーティ・タイム!
これで、下が荒地なら完璧にマッドマックスワールドなわけで、なにも言うことないのだが。
ま、グランドシートを忘れてるから、今回は逆にちょうどいい。
夜露も少しはマシだろう。
いや、根拠は全然ねーんだけんども。
シュラフに半身を突っ込むと、俺は絶好調のひとり宴会を開始した。
冬の夜中に、単車のそばで飲むバーボンの、うまいことうまいこと。
ふと気付いて見上げると、夜空には朧がかって霞んだ月。
こりゃやっぱ星空は無理だったな。
本を読んだり、酒を飲んだりしながら、気ままなひとりの時間を楽しむ。それに飽きれば、こんどは酔っ払ったアタマで、イロイロと思索にふけったり。まさにこれこそ、俺のやりたかったこと。
単車と酒の、最高の調和だ。
ふだん、こんなにじっくりと心ゆくまで愛機を眺める時間はない。
なにもしないで、ただぼーっと考え事をする機会もない。
ひたすらに呑んで、空を見て、読んで、単車を眺めて。至福の時間が、ゆっくりと過ぎてゆく。
やがて、さすがに寒くなってきた。
アタマまですっぽりとシュラフにもぐりこんで、冷たいアスファルトの上に転がる。
いつもなら考えられないほど早い時刻にも関わらず、俺は幸せな気持ちで眠りに落ちた。
驚くほどぐっすりと眠り。
爽快な気分で目を覚ます 。地べたで寝たにもかかわらず、なんだかビックリするほど身体が軽い。
けっこう呑んだのに、酒も全然残ってない。
あれ? 俺、もしかしてすげー野宿向きなのか? むしろ野宿側なのか?
そして、あたりはすっかり明るい。
とっとと荷物を片付けて、さて、今日はどこを走ろうか。
と言っても、富浦に泊まった段階で、房総フラワーラインを走りたいに決まってるからで、当然、フラワー目指していくわけなのだが。
朝起きて、トイレで顔を洗って、ぐいっとタオルでぬぐった瞬間。
とんでもないことが起こった。
前の晩から入れっぱなしだったコンタクトが、ずれて千切れたのだ。
だが、ご安心を。
俺のメディスンバッグには、スペアのコンタクトが入っている。
ほら、常備薬の入った袋を取り出して、なかからスペアを取り出して……うん、これじゃない。
これはジッポの着火石だ。
じゃなくて……え~と……
ヤーハー! スペアレンズ、忘れちったぜ! きゃっほうっ!
も、ホント信じられないウカツさ。
時刻はまだ、朝の8:30。もちろん店なんか開いてない。
さすがにどうしようもないので、とりあえず片目ポンコツのまま、のんびりと走り出す。
まあ、目ぇ三角にしてかっ飛ばすんじゃなければ、それほど支障はないようだ。
そのうち道端で、眼鏡屋かドラッグストアでも見つけたら、そこで買おう。
しょんぼりしたまま、俺は走り出した。
2/2へ続く