そして、伝説へ 2/2

 

カルストまであと少しってところで、地図を確認した俺の目に。

地図の東側、カルストと反対のところにあった、ある文字が飛び込んできた。

その文字とは、天狗高原



思い出して欲しい。

俺のもうひとつの目的に、UMA捕獲があったことを。

ここまであまりにも順調に走ってこれたことに気を良くした俺は、



「んだよ、天狗捕まえちゃうか?」



などと、少々テンションの上がった頭で考えていた。

その上、どうやらその先には、四万十の源流があるらしい。



「ま、天狗はギャグにしても、源流は見てみたい」



そう考えたとして、誰が責められよう。

俺はカルストと反対に曲がり、天狗と源流を求めて走り出した。



 
 

しばらく走るうち、なにやらだんだん道が細くなってくる。

「う~む、こりゃあかなりヘンピなとこだな。さすが源流。いや、天狗」

ハイテンションな独り言をわめきたてつつ、俺はひたすら山の上を目指して走った。



道はだんだん細くなり、ガレてきて、なにやらチョロチョロと水まで流れ出している。

源流とかなんとか言うよりも、フツーに道幅がヤバくなってきた。



「ありゃ、こりゃさすがに無理か。仕方ない、戻ろう」



今回はじめてのUターンだ。






左側にかなり水が流れていて、道に穴が開いている。

正直、300キロを超えるクソ重たいクルーザで来るところでは、断じてない

オフ車ならともかく。



「調子に乗りすぎたなぁ」



と反省しながら、俺は穴と水を避けて道の右端にRIIIをとめ、タバコに火をつけた。




う~ん、静かで気持ちいいっ!

 
 


と。



 


ぐらり。

 




え?

 

 


強固なはずの大地が、RIIIのフロントを飲み込もうとする。

昨日までの雨で、地盤が緩んでいたのだ。



俺はあわててRIIIにまたがり、車体を支えた。

チカラ入れすぎて筋肉の切れる音が聞こえたかなってくらい、気合入れて支えた。

だが、乾燥320キロの車重は、俺の豪腕(?)も支えきれない。




やがて……




ぱたん。



無常にも立ちゴケるロケットスリー。



「あ~あ、やっちまった。クソ重たいの起こすのヤだなぁ」



へこんでいると。

 

ぐら……

 

倒れた車体が、さらに傾き始める。

 

「え? ちょ、まてまてまてまてまて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
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……ありえねぇ…………

 

延々のぼってきたひと気のまったくない林道で、これほど見たくない光景があるだろうか? 

車体が完全に腹を見せてる絵は、目に見えてはいても、頭の中でうまく認識できない

ちなみにこの下は、かなり切り立ったガケが6メータほど。

 


ありえなさがUMAの比ではない光景に、呆然とたたずむこと、数秒。



スクワットレッグプレスで200近く上げられるし、下から押し上げればもしかしたら」

考えた俺は、とりあえずこの光景を写真に撮る。

それから、今になって考えればアホほど無謀な話だが、車体を下から押し上げようと試みた。



足場を作り、踏ん張って、えいとばかりに持ち上げる。

車体はぐらりと動き、いくらか起き上がりそうになる。

「お、イケるか?」と思った、次の瞬間。

 

ごろん。

  

「……!」


 
ごろん、ごろん、ごろん。



転がり落ちてくる車体の下敷きにならないよう逃げつつ。

恋人に追いすがる演歌歌手さながらに、片手を伸ばして、声にならない叫びを上げる俺。

その目の前を、無情にも転がり落ちてゆく愛機
 

 

 

 

 

 

 
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4メータほど転げ落ち、崖の中腹で止まった。


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ヒグラシの声。

せせらぎの音。

痛いほどの静寂。

 

 


五分ほど、そうしてたたずんでいただろうか。

やがて俺は、恐ろしいことに思い当たる。



携帯はまるっきし圏外

時刻は陽が長い南国とはいえ、あまり余裕のある時刻とはお世辞にも言えない、夕方の四時

その上、イッコも人気(ひとけ)のない寂れた林道。

300キログラム以上もある、崖の下に転がり落ちた単車。



そう。



単車もヤバイが、俺の状況はもっとヤバイのだ。

 




とりあえずRIIIから荷物を降ろし。

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最小限の荷物を持って、林道を下り始める。



時々携帯のアンテナを確認しながら、下ること数十分。

なんとかアンテナの立ったところで、警察に電話する。

そこからたらい回しにされ、ようやく地元の駐在さんと連絡が取れた。



が、場所がイマイチ把握できないようだ。



仕方ないので、場所の特定ができそうなところまで、また下る。






やがて県道の看板が出てきたので、その旨告げようと電話を取り出すが、また圏外。

アンテナの立つところまで行き電話するも、つながった瞬間にアンテナが立たなくなる。

ブツブツと切れ切れで、まともに会話できない。



しばらくしてあきらめた俺は、林道を下りだした。

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途中、地元のヒトが使うのだろう、ショートカットを見つけ、まったく人気のない道を、延々と下る。

余計なことを考えると、いろいろとやる気が削がれるので、心を無にして、ひたすら淡々と。

正確には、「次の単車、なに買おう」とか現実逃避しながら下る。



後で調べたところ、結局、林道を13キロほど下ったようだ。

時間にして約二時間、歩き詰めである。

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ま、こんなところに落ちてたら死んでるわけで、命があっただけマシか。


 

暑さ、疲労、あせりが、俺の体力をガンガン奪ってゆく。



心身ともボロボロになりながら、ようやくふもとまでたどり着き。

そこにあった食料品屋で電話を借り、先ほどの駐在さんに電話した。

二十分ほどしてパトカーが到着



冷房の効いた車内で、俺はようやく安堵のため息をついた。






駐在さんに事情を話しながら、今来た道をまた登る。

なお、以下の土佐弁はうろ覚えの記憶で再現しているので、正確さは期待しないよう。

 

「こがぁなところ、地元でもこんがよ。怪我してたら白骨じゃったの」



シャレにならない話を聞きながら、墜落現場まで行く。

残った荷物をパトカーに積んで、山を下りながら彼と話した。

どうやらこの時間ですでに、電車もバスも動いてないらしい。



落胆しつつしばらく話すうち、なにやら俺の体育会系のノリを気に入ってくれたらしい駐在さん。



「バイクはひとまずこのままにして、高知空港までタクシーで行く」



という俺に「金がかかりすぎる」と叫ぶと、携帯を取り出す。

やがて、電話を切った駐在さんは笑いながら、

「ワシの知り合いの民宿に泊まれ」と言い出した。



俺は感謝しつつ、彼の言に従った。

 
 



民宿は、温泉が家風呂ほどの大きさの、寂れた雰囲気の場所だった。

四万十の鮎釣り客用の民宿らしい。

ただ、あとで調べたら、かなり有名な宿ではあるようだ。



釣り人の間ではの限定つきながら。

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最初は素泊まりだと言われ、コンビニでにぎり飯とビールを買っていった。

だが、到着してみれば、そこの主人が晩飯の用意をしてくれていた。

そして駐在さんと俺、主人の三人で、酒を飲み始めた。






飲みながら話していると、主人が突然、にやりと笑う。



「やっぱり、柔道をやっていたヤツは、一本筋が通っちょるの」

「なはは、ありがとうございます」

「おまん、バイクをぼてコカしたちゅうたな? なら、ちくと待っとれ」

「え……あ……いや……」



言うが早いか、携帯を取り出して、電話している。

「ああ、ワカ? あんな、今ウチに、バイクぼてコカした男がきとるんじゃ」

なにやら、やたら楽しそうに話す主人。



「バイク乗りのよしみで助けてやって欲しいがよ。気持ちのいい男じゃき、ワカも気に入るはずじゃ」



俺は、誰かのために自分が動くのは苦にしない

だが、誰かが俺のために苦労するのが、とても苦手だ。

だから、ありがたいの半分、申し訳なくて放っておいて欲しいの半分と言った気持ちだった。



で、その「ワカ」と言うヒトを待っってると。

やってきたのは俺のイッコ上の、建設会社の若社長。

だから、「ワカ」なのだ。



ZRX1200を駆るというその人は、俺の顔を見るなりニヤリと笑うと、

「任せとけ」

そして、そのまま宴会。


 



ここには、俺がたくさんいる。

傲慢な言い草かもしれないが、俺はそんな風に感じた。

俺がこうありたいと思う「気持ちのいい男」を、みなが当たり前のように体現しているのだ。

一緒に酒を飲み、バカ話に興じ、笑いあい。



俺はもう、どうにもたまらなく、この町が好きになってしまった。



この町の人々は、飲んだくれでお人よしだ。

そして、町の行く末を案じ、みなが自分のやり方で町のために何かしようとがんばっている。



主人は釣りで、若社長はバイクを通じて。

そして駐在さんは俺みたいなメイワクモノにさえ、厚い人情で接してくれることで。

すこしでも町を活性化しようと、がんばっているのだ。



「町のために」何ができるか

飲みながら、そんな話を当たり前のように語り合う彼らの言葉を聞きつつ。

俺は自分が少し恥ずかしくなった。

 


 


明けて翌日の月曜日。

朝起きると、すでに来てくれていた若社長らとともに、墜落現場へ向かう。



現場に行くと、非番だと言う駐在さんまで顔を出していた。

昨日初めて会った俺を心配して、休日返上で付き合ってくれるつーのだ。

お人よしを通り越して神々しい。






それはともかく、さぁ、RIIIの引き上げだ。

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手前のジャージのヒトが、お世話になった駐在さん。


 
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ワイヤを引っ掛けて、ユニックのクレーンでRIIIを吊り上げる。


 
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ウインチがうなると、RIIIが動き出す。


 
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宙を舞うROCKETIII。

「フロントに引っ掛けてコレだけバランスするんだから、やっぱRIIIってエンジンが重たいんだなぁ」

と、俺は妙な感心をしながら、作業を見守った。



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上がったRIIIは、ハデに転がった割には軽傷だった。

ハンドルがひん曲がっているのと、タンクがへこんでいるくらいが、主だった傷だ。

ビートルバッグも、細かい傷以外は無事。不幸中の幸い。



思ったより軽傷そうなのは、やわらかい土の上を転がったからだろうか。

いや、俺の普段の行ないがいいからだな、きっと。



RIIIはこのまま町に下り、レッドバロン高知店が引き取りに来た。

二週間後には柏店に帰って来るそうで、そこで調べてから今後どうなるかが決まる。

もしかしたら再起不能になる可能性もあるのだが、ま、そのときはそのときだ。



 


結局、三大カルスト制覇どころか、ひとつも行けずに終わったツーリングだった。

だが、四国での出会いは、その悔しさをずいぶんとやわらげてくれた。

通り過ぎるだけだったハズが、気持ちのいい男たちと杯を交えられた。

すばらしい思い出になった。



いや、負け惜しみじゃなく、ね。





 
なお、このあと、ただ帰るのは癪なので、高知竜馬空港から九州へ飛んだ。

そして韓国から帰ってきたダチのZRZと合流。

Zの運転するレンタカーで、のんびりと阿蘇めぐりして来た。

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もちろん、次回のための偵察だ。

 
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この光景を、単車の背で眺めたかった。

 
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ダイナミックな阿蘇の風景を眺めつつ、俺は決心を新たにする。

 

「かならず、ここを走ってやる」

 

懲りてないって?

 

あたりまえだ。

 

俺は死ぬまで、単車乗りなのだよ。

 

 『そして、伝説へ』 ―了―

 
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by noreturnrydeen | 2006-07-15 12:53 | ソロツーリング | Trackback

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